朝日ニュース第1316号
1.人類の辛抱と長蛇――万国博
人類の進歩と調和をテーマにした万博は、延六千万人を越える人々を集めた。まるで六ヶ月間にわたった民族の大移動さながらだ。開門前の早朝から会場めざして北から南から人々が押し寄せる。広い駐車場は満車、ゲートには長蛇の列が続く。朝九時にガードマンの合図でゲートが開かれると、待ってましたとばかり、競争で駆け出す。人気のパビリオンに殺到する。たちまち会場は人波に埋めつくされ、国電なみのラッシュ状態になる。混雑に心配した係員が「あまり無理をすると、とり返しのつかない状態になります」と叫ぶけれど、効果はさっぱり。アメリカ館に三時間以上も行列をしている一人のおじさんは「これということもないが、せっかく来たので月の石でも見たい」と語る。やっと、展示館へ入れたものの、次から次へと増える人々にトコロ天式に押し出される始末だ。それでも「あんなに待ったのも話の種になる」と元気いっぱい満足そうだ。五日の土曜日には一日の入場者が、八十三万人と万国博史上、空前の人出となった。もはや、展示館へ入って見物する時間より、行列の待ち時間の方で一日が終わってしまう。突然の夕立にも、人々は行列をくずさないで、順番を待つ。何時間も待たされても、不平もいわず、列を連ねる光景は、どうやら「進歩と調和」ならむ「辛抱と長蛇の列」の万国博だ。
2.ある生活 長生き村
山梨県上野原棡原は日本有数の長生き村だ。
七九才で畑仕事、この大工さんは七八才、八〇才で山のような桑を背負う、こんなご老人がいっぱいいる。なんと七〇才以上の人が二〇一人もいるのだ。
ひ孫の子守りをする三浦とみさんは九三才。炊事仕事もやれば、耳も達者で電話にも出る元気なおばあちゃんだ。
九二才の安藤けいさんの日課は針仕事。眼鏡もかけずに針の穴に糸を通す。
秋空の雲の間から降る雨はスモッグの混らないきれいな雨。美しい自然、山と河のある公害ひとつない別天地だ。
中央本線上野原駅からバスで五〇分、都会から離れた山あいの生活が江戸時代から続いていた。
昔から米はとれず肉もなく大豆が肉の代わりでした。戦争の前までは雑穀が主食となっていたのだ。
石井はるさんは、今年九八才。あと二年で百才になる。
孫の子供のその又子供からホーキをもらって庭そうじ。
夕食は家族みんなで賑やかだ。じじ抜き、ばば抜きなんて、全くないから淋しいなんて思ってもみたことない。五八才の孫や七八才の息子に負けてたまるかと、モリモリ食べるはる大おばあさん。
家中笑い声がたえない楽しい老人天国である。
Asahi news No.1316