ネズミを町から追い出そう 昭和26年の衛生美化運動
〔未来に生かす記憶〕
今から50年以上も昔の日本はまだまだ食べていくのがやっとの時代。栄養失調に結核、チフス、天然痘、日本脳炎といった恐ろしい病気がはびこっていた。その病原菌を運ぶネズミや害虫をなんとか追い出そうと、町ぐるみで協力する衛生美化運動を紹介する。
昭和26年に作られた映画「住みよい街」の舞台は、環境衛生モデル地区に選ばれた北海道の大正村と三笠町、喜茂別村、そして長崎の彼杵町。割烹着をつけた町内会のお母さんたちが一列に並び、竹箒で砂埃をあげて道路を掃くところから始まる。家の周りは掘っただけのどぶに生活排水が流れ、むしろで蓋をしただけの肥料溜めや家畜小屋と、害虫が発生しやすい環境だ。町に掲げた看板で「結核の撲滅。健康な住まい、郷土を建設しよう」と呼びかけている。保健所は鼠族昆虫駆除懇談会を開き、ハエやシラミ、ノミ退治を村民に奨励している。便所の周りはハエのサナギがもぐり込まないようにコンクリートで塗り固める。家畜小屋の土は掘り返され、焼却炉で殺菌する。ネズミの駆除には一番力を入れて、いろいろな毒餌の作り方を紹介している。その一つはカボチャの種に毒薬ネオメッソを入れ、そば粉をまぶすという念の入れようだ。DDTは噴射器で町中に散布され、人の頭や服、布団に吹きつけている。女子の頭には家でも学校でもDDTを振りかけるという徹底ぶりだ。
害虫が駆除され、清潔になった村では家畜は太り、鶏の卵の産みもよくなったと紹介している。「清潔は我々を明るくし、生活を豊かにするという」言葉は当たり前すぎるが、実際この映画が作られた昭和26年には赤痢が大流行し、全国で1万5000人近い人が亡くなっている。
街がきれいになった今見てみると、住民の努力なしに、ただで清潔と安全が手に入ったわけではないのがよくわかるタイムトラベルだ。
1.「住みよい街」北海道大正村
昭和26年(企画:北海道環境衛生課 協賛:三笠町 喜茂別町 大正村 帯広保健所 岩具沢保健所 倶知安保健所)
ねずみ族こん虫駆除模範地区表彰式会場
帯広バス 女性車掌 役場
道路の清掃をする人びと 消毒
学校 子どもたち 清掃
ネズミの毒餌の作り方 カボチャの種にネオメッソを入れる
薬剤の無料配布
家畜(豚・牛) 牛舎
井戸水で洗濯をする女性たち
2.「住みよい街」北海道三笠町
害虫駆除座談会
便所の周りを掘り、ハエの幼虫を熱湯や薬剤で駆除
床下へDDTを散布
子どもたちへのDDT
整備された下水道
喜茂別駅 蒸気機関車
ネズミ駆除剤 ネオメッソ デスモア
公民館
環境衛生について協力を求める掲示物や放送を使用した周知・普及
3.「住みよい町」長崎県彼杵町
(協賛:DDT協会)
彼杵町モデル衛生実践会本部
大村保健所
害虫の発生しそうな場所を調査する職員たち
対処方法の普及
町内のDDT散布
青年団・婦人会・子どもたちによる清掃
ボウフラが繁殖しないよう水辺の対策を行う町民たち
紙芝居による普及
ノミの繁殖を防ぐため床下や畳の清掃
シラミ駆除のため女子生徒の頭に薬剤をかけている
ネズミ団子(毒餌)作り
町民たちの対策
資料協力:北海道立図書館