非常時日本
「非常時」とは、いま50歳以上の日本人なら、昭和の初期から終戦まで、耳にタコが出来るほど聞かされてきた言葉だった。まず「戦争中という非常時なのだから、すべてに倹約、節約につとめよ」から始まって「お国の為天皇のために働くことが国民としての任務であり義務である」などと、政府や軍部は戦争のため、国民に挙国一致を呼びかけたのだった。
今回のタイムトラベルは、昭和8年(1933)に陸軍省のもとで制作された作品「非常時日本」が中心になっている。その中で、時の陸軍大臣荒木貞夫が大演説をしているが、それを土台として、その頃の日本の状況を描きだしているものだ。
昭和6年に起きた満洲事変、この日本の満洲国建設を否認されて国連を脱退し、国際社会で孤立した日本が、中国への侵略を強化していた時期だ。大臣の演説には、「東洋の平和を打ち立てるため」という大義名分が盛んに強調されている。満洲事変や 神国日本の映像が使われているほか面白いのは、映画のラブシーンや社交ダンスに興じる日本人をドラマ風に登場させ、西欧の頽廃した文化にかぶれた「非国民」と非難していることだ。
半世紀を経過して見ると、荒木大臣の演説のほうが時代錯誤で作品も力を入れれば入れるほど非常時の悲壮感が滑稽に思える。あらためて時代の変化を感じさせる。
「非常時日本」は大阪毎日新聞社が製作した軍事プロパガンダ映画。
荒木貞夫陸軍大臣の演説をナレーションにして、日本、中国、地図、小芝居などの映像を組み合わせて訴えかける。
1.タイトル、オープニング
2.「非常時日本」1、2巻
中国での様子、軍艦、桜、神社、国旗、中国人の生活。
3.「非常時日本」3、4、5巻
山、川などの自然風景の映像。
列車が駅のホームに入る。近代的な建物、銀座の風景、ショッピングする女性。
(小芝居)社交場、酒を飲む男女、ダンスをする男女、ネオン街、夜の街を歩く男女、喧嘩する人達。
戦場の兵士たち。
出征する人々、見送る婦人会の人達、献納に並ぶ人達、小学校、慰問袋を用意する女性たち。
(ドラマ)新聞を販売する少女。ダンスをする男女、指輪の時計、新聞売りの子どもたち。
戦地の兵隊たちを思い浮かべている。ひかれそうになる少女、ひきそうになった車はダンスをしていた男女の車で、少女の両親だった。少女の話を聞いて改心する母親。
伊勢神宮、橿原神宮、熱田神宮、明治神宮、皇居(二重橋)
4.「非常時日本」6巻
海外の映画ポスター、新聞記事、化粧直しする女性、デートする男女、街中を歩く女性たちの女性は洋服和装様々。ゴルフをする男性、体操する学生。
進軍する兵隊、中国蘇州の様子。貨車に乗る兵士達、中国での反日の様子。
「非常時日本」 (米国国立公文書館提供)