東京オリンピックNHK実況録音集(VOL.1 第2巻 SIDE2 閉会式)
福島幸雄 実演家
※オープンリール資料
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資料補足
ナレーター 土門正夫 閉会式実況 福島幸雄
東京電気化学工業株式会社録音
オリンピック東京大会組織委員会監修 昭和39年12月1日発行
【閉会式】1964年10月24日 国立競技場
「第十八回オリンピック東京大会の閉会式は二十四日午後、曇り空、冬の初めを思わせる冷気のなか、東京・千駄ヶ谷の国立競技場で天皇、皇后両陛下をお迎えして行われた 旗手、選手入場に続くブランデージIOC会長の閉会宣言のあと聖火は消え、九十四カ国、五千五百五十七人を集めたアジア初のオリンピックは四年後のメキシコでの再会を約して、その幕を閉じた
七万人の観客が一瞬あっけに取られた、はでな選手たちの入場ぶりだった
開会式と違って、この日はカクテル光線に明るく照らされたアンツーカーに、まずシール(国名板)と各国旗手だけがはいってきた 九十三番目、この日独立したばかりのアフリカの国「ザンビア」(旧英領北ローデシア)のヘインズ旗手が、緑地、金ワシの真新しい旗を誇らしく掲げ、ひときわ高い拍手を受けた、その直後だ
選手たちの最初の一団が、九十四番目の日の丸を追いかけるようにして、走り込んだ 赤、緑、青の、色とりどりのユニフォームが入り乱れ、歓声をあげる しばふの上をはね回り、スクラムを組んだ 日本の福井旗手やザンビアの旗手が、騎馬戦の小学生のように肩に乗せられている 広いグラウンドが、たちまち世界の陽気な若者たちに占領された
予定の八列縦隊行進はどこかへ影もなく消し飛んだが、戦いを終えた若者たちの素直な喜びが観客席にはね返るのに、ヒマはかからなかった
(中略)
メダルを首にかけて、日本選手の先頭を歩くメダリストたちには、大きい拍手がわいた
入場行進の時間が三十五分 予定より十分遅れて、やっとしばふの上に、選手たちが並んだ
(中略)
照明がふっと暗くなった と、スポットライトに浮かび出るメーンボール ギリシャ、日本、メキシコの三国歌がつぎつぎに演奏され、三つの国旗があがった すっかり暗くなった空からの風を受けて、光のなかで明るくはためいた さっきまでの騒ぎが、ぴたりと静まる
ブランデージ会長が式台に立って、ゆっくりと閉会の宣言 聞きなれた東京大会のファンファーレが、いっそうの哀調をおびて夜空に響いた すべての照明が消えた 巨大なすりばちは音楽隊の豆ランプだけが点滅する暗い海 聖火台の赤いほのおだけが、目を射る
かすかに、すこしずつ、聖火のほのおが小さくなってゆく 十秒、二十秒・・・・・・ オリンピアからはるばると運ばれ、東京の空で若きものたちの健闘を見守り続けた太陽の火が、静かに消えた 深いやみのなかから、わきあがる賛歌の大合唱
(中略)
突然、グラウンドに現れた大きな火の輪、いつのまにはいっていたのか、東京女子体育大学二百人が、トラックの内側、しばふをかこんでささげる二百本のたいまつの輪だ
惜別の情をこめて、“ほたるのひかり”の曲 一度、二度、三度と繰り返される 女子大生たちの手足の動きとともに、波打つ火の輪 たいまつのあかりに、かすかに照らされた健康な顔 電光掲示板に小さく現れた「SAYONARA」の文字が画面いっぱいに拡大される
文字が変わった 「WE・MEET・AGAIN・IN・MEXICO・CITY 1968」 メキシコ市でまた会おう 四年後の再会を約し合う誓いのことばだ 」
(『日本経済新聞』 昭和39年(1964)10月25日日刊 「東京オリンピック閉幕」より)