新聞小説史 明治篇
第一章 明治初期
I 新聞小説の原型=続き物
異質の読者層/政府のマスコミ攻勢/戯作者動員(小新聞の生まれるまで)/小新聞を作った人たち/初期の作家たち/初期の挿絵画家たち/俗談平話の精神/洋学者と戯作者/続き物記者の系譜/錦絵新聞の虚構/原型を生んだ三人/
平仮名絵入新聞/「金之助」の評価/続き物記者の生態/仮名垣魯文のこと/「鳥追いお松の伝」/関西の「小新聞」/活版技術の夜明け/町人とニュース/「大阪日報」の背景/西南戦争と新聞/社長と社主の関係/本山一彦の登場
II 政治小説の季節
鬼才・津田貞「朝日」の創刊/赤字に悩む/経営者と編集/派手な退社/村上・上野のコンビ/案外堂・小室信介/悲運を挽回した小説/半牧の「短夜話」/小説の資料提供係/硬軟両刀・半井桃水/政治小説のハシリ/「南の海血潮の曙」/
"民権華族"欽堂/"内勅"で社長辞任/百華園と夢柳/自由に先立って/小説と政治活動/逍遥の政治小説/青年男女への影響/板垣とユーゴー/竜渓「経国美談」を書く/口述筆記で脱稿/尾崎咢堂の小説論/改進党系の作家群/文選から仮編集長に/
南翠、執筆中に逮捕/「小説神髄」の影響
第二章 明治中期
I 近代文学の苗圃
新聞改革の年/「読売」はじめて諸説を連載/新聞小説の二文星/「報知」小説を連載/「東日」も「昆太利物語」/円朝物で気を吐く/読者をとらえるリズム/大新聞の大衆化/言文一致体の小説/逍遥と二葉亭/「武蔵野」と「浮雲」/
涙香の処女作/「都新聞」主筆になる/文学に非ず報道也/東海散士大毎主筆に/"大毎"に危機迫る/小説を書く渡辺主筆/二十二歳の菊池幽芳/小説に朱筆を入れる/三千円で「東京朝日」発刊/小説記者の争奪戦/文海の「朝日」退社
II 「文学新聞」と戦争小説
木村曙女史の出現/黒髪を父に切られる/「婦女の鏡」の背景/鹿鳴館風の甘さ/背景にみる世相/「読売」を去った人達/三文星「読売」へ/「文学新聞」の面目/逍遥を口説く上野社長/露伴と西村天囚/逍遥の新聞小説論/新聞小説の条件/
「浮城物語」の反響/芽が出ない蘆花/紅葉の「読売」、露伴の「国会」/緑雨のお抱え俥/「国会」が生んだ名作/村山と露伴の心意気/「報知」の四本柱/村井弦斎の出発/抱一庵「闇中政治家」/ころげこんだ風来坊/ちぬの浦浪六の誕生/
大衆文学の一源流/"浪六もの"の秘密/桜痴と渋柿園/「太平記」を凌駕/歴史利用の戦争小説/泉鏡花の「予備兵」/幸徳秋水の"虚脱"/秋水の新聞小説/「滝口入道」当選/懸賞で生まれた作家達/大家も「万朝」に応募/柳浪、新風を送る/
蘆花の「老武者」/戦争と新聞の間/霞亭の若き日に/挿絵古版木の利用/小説を書く桐生悠々/秋声・紅葉門に入る/泉鏡花の処女作/「京都日出」と小波
III 推理小説の王国「萬朝報」
霞亭「大朝」に移る/大量院制作速筆居士/二葉亭との因縁/大衆文学の先駆者/文章抜群の大男/「"社因"にはならぬ」/議会と小説と・・・・・・/紅葉・幽芳の交わり/原敬、漢字制限を実施/推理小説ブーム起る/推理小説の読者/
「萬朝報」の由来/付録に涙香の小説/黄色紙の始祖/苦肉の策「探偵叢話」/推理小説と新聞の風土/樗牛「巌窟王」に惚れる/推理小説の花ざかり/硯友社同人も書く/涙香の探偵小説論
IV 「金色夜叉」の時代
新聞小説を教材に/包一庵の誤訳事件/包一庵ついに狂死/紅葉、四号活字に怒る/梅花「読売」を去る/貧苦が生んだ新体詩/当り屋作家弦斎/連載小説のワイド化/「金色夜叉」の時代来る/紅葉スランプから脱け出す/
病を擁して筆を執る苦役/安定感を与える美文/お宮のモデル/洋装文学「金色夜叉」/鷗外も漱石も読んだ/「金色夜叉」への対抗策/"断続連載"の新記録/紙上ににじむ/苦吟の血/「病骨」を拾われる/「読売」の部数減る
第三章 明治後期
I 紅葉の死が生んだもの
紅葉門下の二百人/反硯友社の気焔俳人、閨秀、区議候補/"発禁作家"葵山/作家を殺す発禁/荷風の「新梅ごよみ」/「冷笑」と「墨東奇譚」/桃太郎と相識る/「四天王」の出発/「婦系図」の舞台装置/
「別れます」と鏡花/師の死と日露戦争と/「白鷺」のモデルに惚れる/秋声との対立/長距離ランナー・秋声/小剣と机を並べる/"小説の神様は秋声"/休載、休載、また休載/「足跡」は持込原稿/皮肉な対照―風葉、秋声/代作の名人たち/蘆花逗子に移る/
夕闇のなかの話/「不如帰」発生/国民新聞の冷遇/「不如帰」の構成/「不如帰」百版を重ねる
II 成功した「家庭小説」
家庭小説とは何か/家庭生活の教科書/「己が罪」の構造/生活に食い込む/金庫に眠る「生さぬ仲」/起用された天外/アウトサイダー精進/紅葉への対抗意識/「魔風恋風」の構成/五千部ふえるごとに祝宴/天外の呼吸の長さ
III 新聞小説にみる日露戦争
「天うつ浪」を中止/木下尚江の反戦小説/新聞連載の戦争物/事実の重み「橘英男」/一兵士、懸賞小説に当選/大倉桃郎とわかるまで/大江素天の「朝日」入社/二葉亭の「朝日」入社/書いても書いてもボツ/三山の温情と見識/
三山、二葉亭を口説く/二十年ぶりの小説/小説をどうするか/ぼくが書きます/ニュースを生かした小説/社説は主戦、小説は反戦/「平民新聞」と尚江/生活と小説の重なり/中里介山の処女作/介山の反戦思想の系譜/尚江、二葉亭に逢う/政治と文学の谷間で/
次代作家への波紋/幽芳と霞亭の功績/作者と読者の対話/読者の手紙を長く所持/家庭小説に熱狂する将兵/読者に感謝する作者
IV 「読売」、漱石招聘に失敗/漱石招聘に動く素川/門人雪鳥が使者に/吉報に喜ぶ交渉陣/象牙の塔を出る条件/漱石、三山の出会い/主筆三山の腹芸/「朝日」に尽す義務/燦然さらに燦然/「虞美人草」の構図/新聞小説への心構え/作戦、図に当る/
「杜鵑厠なかばに」/首相の文士招待と漱石氏の虞美人草/虞美人草を売り出す/読み継がれる秘密/新聞小説家としての漱石/魯迅、漱石を読む/両者に共通するもの/漱石、二葉亭と会う/すれ違いのコンビ/「神田川」の三人の男/「春」になるまで/
「春」のはじめ/透谷自殺の衝撃/「人生の春」を求めて/友情、文豪を生む/「俳諧師」と漱石/「春」の終りと紅緑/花袋「生」に悩む/新聞の支配芸術を峻拒/眉山の自殺と独歩の死/社会を抉る新聞小説/「煤煙」事件/告発を突き放す/
結晶したヒロイン像/新聞に不向きの作品/原体験を探る/「赤い色が好きだった」/現実と一致した筋の進行/「門」の題名由来/家を売って筆を執る/草平、漱石に泣く/連載十日で有名に/師の批評と叱責/書けない草平/「それから」で「煤煙」を批評/
近代人漱石の全貌/啄木、漱石に傾倒/文芸欄の手始め「冷笑」/長塚節の感激/写生道の正統を・・・・/「土」のモデルたち/三山の理解と支持/四十年後に脚光/名刀一振、辞意表明/噛みつかれた三山/漱石も友情の辞意/"玄耳重用"される/亡き母を追う/
無常を刻む追悼文/新聞小説の"明治"終る
参考文献
索引