疎開体験の戦後文化史
まえがき
序 章 いま、疎開を考えることは
1 疎開って何?
2 二〇一〇年代、戦闘なき戦争映画
3 疎開体験をさかのぼる
第1部 戦争を体験する疎開――柳田国男、記録と証言、疎開派
第1章 「昭和の楠公父子」になるために――学童集団疎開・七生報国・『先祖の話』
1 急遽断行される疎開
2 「学童疎開問答」と「桜井駅の別れ」
3 受け継がれる「志」――七生報国
4 七生報国の「本義」――柳田国男『先祖の話』
5 学童集団疎開の「本義」
第2章 もう一度、空襲と疎開を――『東京大空襲・戦災誌』、「名古屋空襲誌」、「学童疎開ちくさ」
1 空襲の「証言」、疎開の「証言」
2 戦争体験としての空襲体験――『東京大空襲・戦災誌』
3 空襲から疎開へ――『東京大空襲・戦災誌』、「名古屋空襲誌」
4 戦争体験としての疎開体験は?――「学童疎開ちくさ」
5 体験の捉え方の相違
6 あってはならない相違
7 一元化の欲望
第3章 戦中派と戦後派のはざまで――疎開派という世代
1 かつて疎開派があった
2 疎開派が立ち上がる――戦中派に異議あり
3 疎開派が走りだす――世代論を武器に
4 疎開派がつまずく――戦後派の大江健三郎に異議あり
5 疎開派を引き上げる
第2部 戦争を体験しない疎開――「内向の世代」・黒井千次・高井有一
第4章 悔恨ではなく、内向する世代の疎開――黒井千次「聖産業週間」、「時の鎖」
1 「悔恨共同体」と「内向の世代」
2 失敗から定位される「内向」――「聖産業週間」1
3 「自己の空位」に触れ合う労働実験――「聖産業週間」2
4 「内向」と「世代」の交差――疎開派ではなく
5 「自己の空位」と対決して――「時の鎖」
6 「自己批判」を相対化する「自己」
第5章 「不確かな私」のために召喚される疎開体験――高井有一「北の河」
1 「北の河」と他者の死
2 疎開派か、「内向の世代」か
3 「内向の世代」文学の「北の河」
4 戦争体験と「わだつみの声のない世代」
5 「私」の疎開体験を凝視する
第6章 疎開体験者の特別な「一証言」――高井有一「少年たちの戦場」からいまを
1 想像力を動かす余地がない小説
2 加害者を抱き締めて――視点の移動
3 被害者の「一証言」――大義名分を捨てる
4 現代につなげる――時点の移動
5 一個人の体験の重み――いまに向けて「翻訳」する
6 いまに、未来に想像力を
第3部 〈田舎と都会〉をさまよう疎開――石川達三・太宰治・坂上弘
第7章 暴き出される疎開と田舎――石川達三「暗い嘆きの谷」
1 社会派作家の文法
2 報道される戦争と疎開
3 記録される疎開/記録されない疎開
4 石川達三の「歴史」と「記録性」
5 疎開から田舎の「真実」を暴き出す
6 〈田舎と都会〉を考える
第8章 東京がら疎開すて来だ「津軽人」が言ってまった…――太宰治「十五年間」「やんぬる哉」など
1 太宰治の「疎開文学」
2 発見される出自、「津軽人」
3 旅人ではなく疎開者として
4 疎開体験の語りにくさ
5 田舎ありきの都会/都会ありきの田舎
第9章 疎開を読み替える――戦争体験、〈田舎と都会〉、そして坂上弘
1 二〇一〇年代の疎開の記憶、その所在は?
2 われらの戦争体験、子どもの戦争体験
3 われらの出会い、〈田舎と都会〉の出合い
4 私と戦争、私と田舎――方法としての坂上弘
初出一覧
あとがき