戦争下の文学者たち
序章 〈戦争下の文学者たち〉というテーマ
戦争とは何か/近代社会と戦争/なぜ『萬葉集』か/「萬葉集の歌の洪水と氾濫」/知性と「愛国」の間で/六人の文学者たち
第1章 与謝野晶子──〈自由〉と〈愛国心〉
与謝野晶子の「愛国短歌」
『大東亜戦争 愛国詩歌集』の晶子の歌/二首の初出と評価/「愛国短歌」の問題
与謝野晶子と『萬葉集』
晶子の愛読書であった『萬葉集』/伝統主義論争/晶子の「伝統主義」批判/世界的人類的視野
「日支親善」の理想
「石井・ランシング協定」と晶子/晶子の〈中国〉へのまなざし/〈中国〉の資本家と「軍閥」への関心
上海事変という転機
〈中国〉に対する見方の変化/上海事変/「紅顔の死」の問題点
〈愛国心〉と天皇に対する崇敬
為政者の弾劾/「君民一体」という原理/「愛国短歌」への道
第2章 齋藤瀏──二・二六事件の影
落魄の歌
激烈な国家主義的活動/歌集『慟哭』
齋藤瀏と『萬葉集』
心の軌跡を示す『萬葉集』の鑑賞書/『萬葉名歌鑑賞』の〈方法〉/〈鑑賞〉の劇的変化
日中戦争の勃発
日中戦争の衝撃/二・二六事件/瀏と栗原安秀
青年将校の「志」を継ぐ
生き残った者の「義務」/瀏の決意
齊藤瀏の「新体制運動」
「栗原安秀」のめざしたものの継承/「高度国防国家体制」と文芸
齋藤瀏の「責」の負い方
「勝つ」ことへのこだわり/「責」を負う
第3章 半田良平──戦争下の知性と〈愛国心〉
戦争下の防人像との距離
「国民精神」/「尽忠」の防人像/良平の解釈
半田良平と『萬葉集』
上流貴族社会の産物としての『萬葉集』/古代の官僚の阿りの歌
半田良平の短歌観と『萬葉集』
良平の短歌観/「流動的なリズム」による〈鑑賞〉
半田良平の知的バックグラウンド
東京帝国大学文科大学英吉利文学科/美学への関心
良平の知識人としてのスタンス
社会的弱者へのエンパシー/良平の芸術観
〈時事歌〉の制作
米騒動/作り続けられた〈時事歌〉/理性と感情
戦争下の半田良平の〈時事歌〉と日記
戦争に関わる〈時事歌〉/空爆下の『萬葉集』研究
半田良平の〈愛国心〉
戦意高揚の記事が見えない日記/「草莽の臣」/良平の〈愛国心〉
第4章 今井邦子──「小さきこと」「かすかなもの」へのまなざしと戦争
今井邦子と時代
苛烈な生涯
戦争の本質に迫る歌
戦争に対する鋭い視点/言論統制を受けなかった『鏡光』の歌
今井邦子と『萬葉集』
『萬葉集』との出合い/心を清めるものとしての『萬葉集』
今井邦子の〈鑑賞〉
苦しみに満ちた〈今現在〉/『萬葉集』の人々の人生の「哀れ」/『萬葉集』の〈鑑賞〉と歌集『鏡光』
「いのち」の浄化
「家」への「忌避と愛惜」/〈述懐歌〉を歌い続ける
今井邦子のまなざし
他者の「いのち」へのエンパシー/「小さきこと」「かすかなもの」
今井邦子の「愛国短歌」
他者へのエンパシーと「愛国短歌」/「小さきこと」「かすかなもの」と「愛国短歌」
今井邦子の戦争賛美の歌
「乱雲」における戦争賛美/天皇への崇敬と「国」の意識
第5章 北園克衛──「郷土詩」と戦争
北園克衛と戦争
前衛詩人・北園克衛と戦争
北園克衛の「愛国詩」
詩「冬」をめぐって/北園の〈愛国心〉と戦争賛美
北園克衛と『萬葉集』
「思考の造形的把握」/『萬葉集』の本質の直覚的把握/矛盾に満ちた『萬葉集』の受容
「郷土詩」とは何か
生涯をかけた「実験」/「郷土詩」の定義(1)─「原始的単純性」/「郷土詩」の定義(2)─「倫理」と「像」
北園克衛の「郷土」
大日本帝国政府の「郷土」政策/新文化創造のための「郷土」/瞑想の内部の「郷土」
「郷土詩」という詩形
「郷土詩」の形式/「郷土詩」としての「野」の特徴
北園克衛の戦争との向き合い方
二つの「民族の伝統」/「郷土詩」としての「愛国詩」の問題点/矛盾に満ちた戦争との向き合い方
第6章 高木卓──〈歴史小説〉という細き道
高木卓の文学活動
高木卓という文学者・芸術家/「歌と門の盾」をめぐる問題点
「歌と門の盾」について
「歌と門の盾」の制作事情/「歌と門の盾」の梗概
「歌と門の盾」と芥川賞
「芥川賞受賞作」となった経緯/評議員たちが指摘した「問題点」
「歌と門の盾」の特徴
プロットと登場人物の特徴/〈語り手〉の位置と文体の特徴
高木卓の〈歴史小説〉の理念と理論
高木の〈歴史小説〉/「詩的真実」の追求/「現在相応」の理論/主役としての時間・空間/『萬葉集』との一回的出合い
高木卓の「偽装」
「歌と門の盾」における「偽装」/「国策」に対する高木の姿勢
児童向け史話・物語の問題
『安南ものがたり』と「大東亜共栄圏」/天皇に対する忠義心
終章 〈報国〉という誘惑
西洋体験を通して得た批評精神/知性的な『萬葉集』受容/六人にとっての転換点/「孤忠」ではなかった〈愛国心〉/〈報国〉という誘惑
あとがき
依拠したテキスト
参考文献
文学者肖像出典一覧
英文要旨