証言・昭和の俳句
まえがき
第Ⅰ部
第1章 桂信子(かつらのぶこ)
若くてハンサム、知的な草城先生との出会い/感覚を詠んだ句の魅力/初めての原稿料、五句五円/戦火でクリスマスツリーのように燃え上がる庭木/検閲の厳しかった戦時中/ふたたび日野草城を囲んで/第一句集『月光抄』出版のころ/誓子の『激浪』を筆写、研究する/
草城、誓子に学ぶ/菖蒲に偲ぶ多佳子の立ち姿/よく働いたキャリアウーマンの二十三年/「草苑」主宰を機に五十五歳で退社/「女性俳句」の始まりから終わりまで/いまの俳壇、ちょっとおかしいですわ/時間がもったいなくて・・・・・・足には不安ありません
桂信子自選五十句/桂信子略年譜
第2章 鈴木六林男(すずきむりお)
戦前戦後、いまに続く検閲/報道管制で検閲事件がどこで起こったのかもわからない/「串柿」で永田耕衣の選を受ける/「一将功なりて万骨枯る」―戦後雑誌の消長/誓子の「天狼」となる/百年に一人の俳人、誓子/東西の人脈/「吹田操車場」で現代俳句協会賞受賞/
三鬼とはウマが合った/三鬼の名誉回復裁判/証言を断った山本健吉/新興俳句の存続をかけた闘い/「諸君、有名になろう」を書いたころ/季語はどんどん増やせばいい/俳句はもっと短くなる/俳句はデジタルや/大阪俳人クラブ四代目会長に就任
鈴木六林男自選五十句/鈴木六林男略年譜
第3章 草間時彦(くさまときひこ)
波郷の魅力/「鶴」の連衆は閉鎖的、と批判を受けた/俳壇活動のスタート―波郷の呪縛?/とにかく金がなかった俳人協会/角川源義さんと俳句文学館の建設/俳句文学館の完成と源義さんの亡霊/「鶴」を去り、以後主宰誌を持たず/
俳人協会理事長の十八年、ちょつと長過ぎたな/手の上にあるのは俳句だけ
草間時彦自選五十句/草間時彦略年譜
第4章 金子兜太(かねことうた)
私を俳句に誘い込んだ自由人たち/〈女人高邁〉のしづの女と、楸邨、草田男の魅力/「土上」の嶋田青峰との最初で最後の出会い/創刊間もなくの「寒雷」で楸邨の選を受ける/大物楸邨/戦前、戦中の草田男と草田男を囲む人々/「寒雷」での交わり/
オバQみたいな先生が好き/「オレたちに選句をさせろ」とは無礼千万/「感性の化物」みたいにブラブラしていた時期/「非業の死者たち」に報いるために/私の反逆にはちゃんと理がある/一貫していた草田男の姿勢に感心する/わが「造型論」の始まり/
「創る自分」を設定してゆく/「前衛」と称される俳句作品群の形成/現代俳句協会、俳人協会の分裂劇/草田男説批判の文章を書く/「抽象や造型は悪しき主知主義だ」と草田男が批判/「何たるディレッタント」―草田男の指摘/始原の姿をとらえよ/
わが師楸邨と草田男の違い/虚子を踏まえて虚子を出た草田男の中期の句集/一茶発見/終生、草田男の句が好きだね
金子兜太自選五十句/金子兜太略年譜
第5章 成田千空(なりたせんくう)
縦横(たてよこ)、二つの選択―師を選び、同人誌を選ぶ/雪、雪、雪、雪の津軽の風土/寺山修司に大ショックを与えた第一回萬緑賞受賞/青森の俳句ルネッサンス/草田男、青森に来る―一週間随行記/「伝統をどう超克するか」で草田男と兜太が対立/
兜太は草田男についていくべき人ではなかったかな/兜太との大論争のあと、「萬緑」は六か月休刊/中央の争いで地方の花園を荒らすな/草田男先生の魂はふるさと松山の墓にあり/地方の〝カルチャー〟発見の毎日
成田千空自選五十句/成田千空略年譜
第6章 古舘曹人(ふるたちそうじん)
父のこと、佐賀の〝唐津〟のこと/学徒出陣の日、のちに女房になる人には何も言わずに別れた/戦後、復学した東大で得たたいへんな宝物/「夢をつくれ」と言って亡くなった角川源義さん/青邨逝去後「夏草」終結、あとはなんにも残らなかった/
昭和を生きてきて、いまいちばん心配なのは日本全体のあり方です/小説「波多三河守」を書きながらスーッといなくなりたい
古舘曹人自選五十句/古舘曹人略年譜
第7章 津田清子(つだきよこ)
掘り出したジャガイモのようだった私/自分でいいと思ったものをつかまえればいい/誓子先生は正直詩派、津田清子は不正直詩派?/有名になろうと思ったら俳句が卑しくなる/この世に役に立たないものなんて何一つない/アフリカ、ナミブ砂漠への旅/
『無方』の次はどこへ行く?/「圭」は土となり十となり、やがて一となる/今度は魂で宇宙に行ってきます
津田清子自選五十句/津田清子略年譜
第8章 古沢太穂(ふるさわたいほ)
酒を飲み始めて八十年、十三歳から働く/「寒雷」創刊号ではボツ、しかし第一期の同人ですよ/大野林火さんから受けた恩/秋元不死男の紹介で新俳句人連盟へ参加/つぶれそうなところを立て直すのが古沢の仕事/松川事件や内灘闘争を積極的に支援/
賞はもらえるときにもらっておけ/俳句欄の選もやり将棋観戦記も書く/やさしい言葉を生かして深いものを出したい
古沢太穂自選五十句/古沢太穂略年譜
第9章 沢木欣一(さわききんいち)
外地の小・中学校を出て、憧れの日本へ/青春の梁山泊、千家荘時代/細見綾子との出会い、結婚/戦地で受け取った第一句集『雪白』/「風」創刊、千五百部たちまち売り切れ/「風」の初期にかかわった俳人たち/社会性俳句の中心的存在となる/楸邨先生の魅力/
文部省へ転任、東京時代の幕開け/俳句文学館建設への協力/東京芸大で二十年、その間、明大にも勤める/いまも印象に残る文学者たち/能登、沖縄、大和というトライアングル/遍路に出て、小我を捨てる/引いていって残るもの、それが俳句/
まだ貯金があるから、あと一冊は句集を出したい
沢木欣一自選五十句/沢木欣一略年譜
第10章 佐藤鬼房(さとうおにふさ)
多喜二の『蟹工船』を読む多感な少年時代/十八歳で上京するも失意のうちに帰郷/戦場で鈴木六林男と知り合う/第三回現代俳句協会賞受賞の余波/孝橋謙二や永田耕衣との論争/阿部みどり女の「駒草」と「東北俳壇」のこと/三鬼と弟子たち/
鬼房は「鬼の貫之」の鬼貫につながる/「小熊座」創刊は年貢の納め時のつもりだったが・・・・・・
佐藤鬼房自選五十句/佐藤鬼房略年譜
第11章 中村苑子(なかむらそのこ)
小説家を志し、家出をする/戦死した夫の遺品から出てきた句帳/「文学をやるなら短いものを」と林芙美子の言葉/〝異色のりんご〟とよばれた「春燈」時代/万太郎の掌と、敦の教え/「鎌倉文庫」でのこと/「俳句評論」発行のいきさつ/
「俳句評論」の発行所はまるで梁山泊/俳句界の隠れた貢献者たち/「俳句評論」の終刊/人間の原始は「水」と思った/「花隠れ」とその後の日々
中村苑子自選五十句/中村苑子略年譜
第12章 深見(ふかみ)けん二(じ)
幸運なスタート/虚子編『新歳時記』などを読破/虚子から直接の教えを受けた研究座談会/繰り返し巻き返し「花鳥諷詠、客観写生」/信仰しなければ本物にならない/虚子を聞き、虚子を見る/虚子からの自立/「虚子は大きな人」と言われた青邨先生/虚子の根っこ
深見けん二自選五十句/深見けん二略年譜
第13章 三橋敏雄(みつはしとしお)
新撰組にゆかりの八王子に生まれる/東京堂書店入社、社内俳句会に参加する/白泉、三鬼の句に魅せられる/三鬼の部下として働く/青春彷徨時代、神田から新宿、銀座へ/「京大俳句」が一斉検挙で壊滅/三鬼逮捕される/白泉らとの勉強句会/
戦後のスタートは運輸省所属の練習船事務長/三鬼と神戸で再会、以来、「同行二人/三鬼主宰の新誌創刊を断念/「戦後は女流の現代俳句協会設立/三鬼の死後に第一句集『まぼろしの鱶』を出版/高柳重信との交友/白泉の抗議の手紙/戦争と俳句/
次の句集に「乞う、ご期待」
三橋敏雄自選五十句/三橋敏雄略年譜
第Ⅱ部
五十嵐秀彦 西東三鬼の影―作家主義への展望
井口時男 無私と自由と
宇多喜代子 『証言・昭和の俳句』上・下巻 再読―過去は未来
恩田侑布子 戦争とエロスの地鳴り―三橋敏雄
神野紗希 女性俳人ではなく、俳人として―連帯の絆
坂本宮尾 戦時下の青春と俳句
下重暁子 「証言・昭和の俳句」
関悦史 グランドホテルのまぼろし
高野ムツオ 鬼房余滴
筑紫磐井 『証言・昭和の俳句』の証言―『証言・昭和の俳句』は『史記』たり得るか
対馬康子 プロフェッショナル
寺井谷子 俳句・えにし
中野利子 『証言・昭和の俳句』を読んで
夏井いつき 未来への選択
仁平勝 少年と老人の文学―三橋敏雄について
星野高士 肉声
宮坂静生 人間万華鏡―戦後俳人を貫くもの
山下知津子 花菖蒲と冬椿―時代と対峙した十三人のモノローグ
横澤放川 千空と兜太と
齋藤愼爾 『証言・昭和の俳句』散策
増補新装版 あとがき(黒田杏子)