昭和史講義 戦前文化人篇
まえがき(筒井清忠)
昭和戦前の文化を扱う困難性―転向の問題/それぞれの人の立場を理解すること/本書の特色
第1講 石橋湛山―言論人から政治家へ(牧野邦昭)
石橋湛山の多面性―評論家、エコノミスト、政治家/湛山の思想の形成/言論人としての活躍と政治的活動への関与/エコノミストとしての活躍/「小日本主義」の挫折/ネットワークの「ハブ」としての湛山/戦後に向かって/政治家への転身
第2講 和辻哲郎―人間と「行為」の哲学(苅部直)
和辻哲郎の墓/普遍性と特殊性/多様性とデモクラシーの伝統/「人間の学」意味
第3講 鈴木大拙―禅を世界に広めた国際人(佐々木閑)
貧しくも恵まれた少年期/国際的仏教者への道/悟りの体験/『大乗起信論』との出会い/「霊性」の確信/「霊性」とはなにか/釈迦の教えと鈴木大拙
第4講 柳田国男―失われた共産制を求めて(赤坂憲雄)
都市と農村とを繋ぐために/原始共産制としてのユイ/山野河海と生存権のかかわり/椎葉村の社会主義について/大いなる精神的所産として
第5講 谷崎潤一郎―「今の政に従う者は殆うし」(千葉俊二)
関東大震災後の谷崎/〈痴人〉の系譜/「春琴抄」の達成/「源氏物語」の現代語訳/「細雪」から晩年の問題作へ
第6講 保田與重郎―「偉大な敗北」に殉じた文人(前田雅之)
保田における戦前と戦後/「偉大な敗北」への階梯①―古典愛と創作「やぽん・まるち」/「偉大な敗北」への階梯②―朝鮮体験とドイツ・ロマン主義受容/「偉大な敗北」の確立と発展―「セント・ヘレナ」から『後鳥羽院』へ
第7講 江戸川乱歩―『探偵小説四十年』という迷宮(藤井淑禎)
乱歩の生涯/『探偵小説四十年』/「貼雑年譜」/『探偵小説四十年』と執筆時期問題/スランプ/統制強化/町会に参加/戦争協力問題/「偉大なる夢」/探偵小説復活
第8講 中里介山―「戦争協力」の空気に飲まれなかった文学者(伊東祐吏)
忘れられた『大菩薩峠』/社会主義との出会い/大逆事件の衝撃/『大菩薩峠』の誕生/『大菩薩峠』とは何か/理想郷の建設をめざして/文学報国会への入会拒否
第9講 長谷川伸―地中の「紙碑」(牧野悠)
苦労人の大衆作家/股旅物から歴史小説へ/「文筆報国」と後進の育成/防空壕のスーツケース/師と弟子たちの戦後
第10講 吉屋信子―女たちのための物語(竹田志保)
現在の吉屋信子イメージ/作家としての出発/流行作家へ/日中戦争下の活動/太平洋戦争下の活動/戦後から晩年まで
第11講 林芙美子―大衆の時代の人気作家(川本三郎)
昭和と共に生きた作家/行商人の子として/震災後を女ひとりで生きる/『放浪記』ベストセラーに/「女流一番乗り」の従軍作家/困難な時代の中で/「明るい戦後」の裏通りを描く
第12講 藤田嗣治―早すぎた「越境」者の光と影(林洋子)
森鷗外とのつながり―陸軍軍医ファミリーという出自/「昭和」と藤田/日中戦争前後の日本で/太平洋戦争に直面する/終戦後の二〇年―母国から離れて/昭和文化史上で果たした役割
第13講 田河水泡―「笑い」を追求した漫画家(萩原由加里)
田河水泡とは/軍隊生活から芸術家の道へ/「笑い」の世界へ/「のらくろ」の大ヒット/漫画としてみた「のらくろ」の斬新さ/「のらくろ」の終焉と戦後の復活
第14講 伊東忠太―エンタシスという幻想(井上章一)
エンタシスがそだてた夢/コスモポリタニズムと日本回帰/鮮卑からは目をそむけ/幻想の根っこには
第15講 山田耕筰―交響曲作家から歌劇作家へ(片山杜秀)
「日本のシューベルト」の意味するところ/「耕筰調」の浸透力/日本語歌劇の確立へ/器楽作曲家のパイオニアを志す/実り多きベルリン留学/行きすぎた西洋近代派/アメリカから帰国後の「傑作の森」/再評価されるべき作曲家
第16講 西條八十―大衆の抒情のために生きた知識人(筒井清忠)
詩人としてのデビューまで/白秋・雨情・八十の童謡運動/詩壇から歌謡曲界へ/三大童謡詩人が新民謡運動へ/最大の流行歌『東京音頭』を作詞/日中戦争と従軍体験/太平洋戦争と『同期の桜』/生命の燃焼感を表現する/知識人としての生涯とその役割
編・執筆者紹介