あら、もう102歳
1 たまたま一〇二歳
気がついたら一〇二歳。電車で席を譲られるのはちょっと…
日に何度も「あちら側」へ。俳句はわたしの竜宮城
すごい小説が五百枚くらい、一夜で書けないものでしょうか
なんでもおいしくいただきます。なまたまご以外は
わたしの俳句は、目をつぶって作ります
あるとき、ドアが音もなく開いたのです
わざわざ苦労して運動はしません
百歳でブログをはじめました。そそのかされて、うかうかと
わたしのなかにA子とB子がいるのです
2 二十歳の銀座
「ひる逢ふ紅はうすくさし」。家を出ていった「夫」との逢い引き
銀座松坂屋裏「ブランズウィック」。二十歳のわたしたち
京橋「日米ダンスホール」。チークを踊るカップルに軽蔑のまなざしを
その人とは、男爵邸のダンスの会(会費制)で会いました
踊る新婚旅行。ほんとうに踊るだけ!
一冊も本を読まない・持たない・出版社勤めの夫
わたしたちの新婚生活。子どもが二人、結婚したようなものでした
遊び場で気前がよければ、それはモテますよ
ダンサーと深い関係に…夫が家に帰ってこなくなりました
北大路魯山人のお店を、大泣きして辞めました
これで夫とわたしは五分と五分。裏切りを許すことができる
帰ってきた夫に、わたしが思ったこと
3 美しい男性たち
「戦場のメリークリスマス」の坂本龍一で、人生が変わりました
デヴィッド・シルヴィアンやプリンスのライブにも行きました
美しい男性たちの映画にはまる
ヒースロー空港で見た金髪の美青年二人
ピース又吉さんと栗原類さん。いまわたしが夢中なお二人
カステラ箱いっぱいまで貯めた映画スターのブロマイドが、ある日
いま日本人でいちばん美しいのは海老さまこと市川海老蔵
三島由紀夫は、一所懸命で、ぶざまで、美しい
仏像よりダビデ像! ただうっとりと思っていたい
中年も美しい。男性のこっけいさも鑑賞対象
4 麹町六丁目七番地
七歳のとき、父が「おもしろいものを見せてあげよう」と
四ツ谷駅の向かい、銀行員の父が建てたわが家
関東大震災を九段坂から見物していた父
当時はふつうの家にも「ねえや」「ばあや」がいました
わがままでかわいい母、母のすべてを受け止めていた父
寄席に出ていた同級生のこと、初恋のイケダジロキチさんのこと
幼くして、美人はトクだと思いました
校内で映画・芝居の話をしてはいけない、という女学校
浅草なら米久。父と待ち合わせての外食は丸ビル
みんなは「清く正しく」。わたしばかりが「悪くてあやしい」
いつしか、あれは「お偉い」方が書くもの、と
出征する若者の壮行会。父が芸者さんを呼びました
疎開先にお雛様をもっていき、文句を言われました
釣りにのめりこんだ父。その影響を受けたのが主人
5 フマジメとマジメ
愛することがツラい、などと、思っていたから、罰をくだされたのです
夫はベッドをのぞきこんで曰く「デカい鼻だな」
カンペキは目指さず、ベストを尽くす。負けず嫌いで弱虫
金原姓と金子姓。経緯がすこし(だいぶ)複雑です
オカネは大切と思いますが、ほんとうはよく知りません
家には仏壇があって、亡くなった家族と話します
ひとりでいることをさびしいと思ったことはありません
ツカモトクニオを並び替える。ひとり遊びのアナグラム
眠っているあいだ脳は何をしているのでしょう?
白いふわふわの中くらいの大きさの犬
ベビーカーが邪魔とはではなくて、赤ん坊を中心に考えればいいんじゃないですか
人が褒めてくれるから書く。誰だってかまってもらいたいはず
四十九歳、ふと魔が差して。おそるおそる句会というものに
学校のお裁縫の宿題を「本職」に頼みました
シクと音して? これは誤植にちがいないと
良い人は天国へ行ける。悪い人はどこへでも行ける
わたしは、ワイドショー的フマジメ人間
「逢い引き」の句は、ねらいどおり評判に
わたしの句は、ほんとうだけどウソ、ウソだけどほんとう
ウソのようなことが起こるのが人生
初出と参照
あとがき
金原まさ子句集
文庫版あとがき 母のこと(植田住代)