戦没者の妻の手記
遺言通りよくやってくれたと(北区・相見登美)
随想ー椿赤く胸さす対話(住吉区・青木美代)
たゝ子への愛ゆえに(天王寺区・青山正子)
わが愛は初め終わりなけれど(西区・秋山かな子)
負うた子におしえられつゝ(東住吉区・明田ミキ)
無念のシベリヤ抑留(住吉区・浅井三津)
心強い遺族会の結成(此花区・井田己喜)
身にしみる義弟夫婦の親切(住吉区・伊葉澄)
戦災の姉の子も引き取って(城東区・幾島富子)
遺筆のハガキが生きる力を(住吉区・池田幸子)
渡る世間に鬼はない(生野区・石黒三石)
大晦日に急な問屋の強談判(浪速区・和泉ムラヱ)
この上は孫をこの手で(西区・今藤フミ子)
長患いの心乱すスウチャン節(西区・岩崎タツコ)
未亡人家族にも健康保険を(浪速区・上枝美代子)
母ちゃん死んでも私ら死ねへん(住吉区・植村登美子)
女手一つに天婦羅製造(東住吉区・植村雪江)
子供を預けて女中奉公十二年(住吉区・梅村房子)
遺児採用のお願い(生野区・梅本富栄)
目のあたり見た遺族会の活躍(此花区・榎本数子)
白木の箱に五百円(都島区・小川貞子)
涙にうるむタイプの文字(東住吉区・小沢正子)
渡ってきた情の国(東住吉区・小原正子)
一日も早く国民健康保険を(東住吉区・尾崎与那子)
胸の病にも打ち勝って(東住吉区・大浦政子)
見よう見まねの洗張業(東住吉区・大倉夏子)
うちの父ちゃん、いつ帰るの?(城東区・大田フサヱ)
握手だけの最後の面会(大淀区・大伴美子)
ひと粒の米も口に入らず(東住吉区・大西ミネ)
落穂ひろいにほゝたゝかれて(住吉区・大宮タツノ)
誘惑、権力、盗人の汚名まで(大淀区・大西久仁子)
生きんがための闇パン売り(東住吉区・大山チヱ)
険しき山道をもう一息(西成区・奥田末子)
アメリカに渡る私の「紙画」(生野区・奥村敏子)
桜の枝の一ふしを捧げて(南区・恩知希江)
山仕事に草履も血まみれ(住吉区・柏原英子)
「異国の丘」に涙の合唱(住吉区・梶川照子)
自分の力で正しくと(城東区・梶田カツ)
胸打つ「お父さん星」の詩(城東区・片岡万喜子)
民生保護に冷たい世間の目(住吉区・片岡シズヱ)
きょうも墓前にひざまづき(東住吉区・門野イト)
帰ってきた夫の霊魂(生野区・角野未代子)
幸福の限界という言葉のなかに(北区・紙上キヨ子)
身元保証制度の充実を(城東区・神田愛子)
岸首相と左藤知事へお願い(住吉区・亀田コマ)
経済にかゝり三犯(大正区・川池貞子)
お母ちゃん、はよ寝てや(生野区・川植秀子)
一人ぼっちの私(東住吉区・川上千賀子)
この手記を亡夫の手向けに(住吉区・川口きよ)
子と親が絶えず結ばれて(西成区・川口トモゑ)
有難かった洋裁の無料教授(西淀川区・川島きみ)
夫の信頼に誓う心(住吉区・川村福枝)
女ばかりというものは(城東区・木田久子)
もう防空壕にも入るものかと(住吉区・岸本マサ子)
皺深く刻んだこの両手(東住吉区・北野ナヲヱ)
早く建てたい主人のお墓(住吉区・清本富美枝)
死闘する「母」の姿(天王寺区・久野浪子)
闇市での鼻緒売りも昔話に(東住吉区・熊谷幸子)
表彰と遺児参拝に感涙(北区・倉本カズヱ)
妹と二人で喫茶店(城東区・小林サト)
戦災ー強盗ー台風ー結核ー立退き(大淀区・小松良子)
いやな陰口(住吉区・河野スイ)
遺族としての誇りをもって(西淀川区・高津好子)
慰霊祭の祭文は私の心の叫び(住吉区・近藤民)
淋しく一人暮し(東住吉区・近藤ふみ)
門前に居眠りして母待つ子ら(旭区・佐藤キミヱ)
わが家にそびえる無線アンテナ(東住吉区・佐野公子)
見てござる、見てござる(北区・坂谷庵子)
遺児すこやかに成人す(東住吉区・坂本文子)
内報から三年目に公報(大正区・阪尾久子)
四年生から新聞配達(城東区・酒井千代子)
珠算で大臣賞もらったわが子(南区・清水文子)
七月は不吉な月(東成区・汐見よ志志)
母子保護法のお蔭でタバコ商(住吉区・下田君枝)
終戦後初めてたいた赤御飯(大淀区・住友静子)
昇殿参拝は一生の思い出(北区・田中波子)
平和の鐘は鳴ったけど(東住吉区・田原シゲノ)
住宅さえあたれば(東住吉区・田部やす子)
三人の子供をつれて仕事に(住吉区・高倉ヲキノ)
石の上にも三年の諺(住吉区・武田久子)
未亡人の愛と汗(天王寺区・谷口節子)
遺児は亡夫に生写し(福島区・玉木静枝)
食堂経営でねるのが一時すぎ(東住吉区・玉野ハツ子)
ジープにはねられ泣寝入り(天王寺区・樽田正栄)
「遺家族」へくやしい侮辱(生野区・坪井フサヘ)
昇殿参拝が主人の命日(住吉区・坪岡義子)
真白い情のおにぎり(東住吉区・鉄羽ノブエ)
投書で打ち切られた民生保護(東住吉区・戸田アヤ子)
やるせなぎさの捨小舟(北区・徳田一枝)
思い出のこの小道(東住吉区・中内ハツヱ)
たとえ一畳なりとも(住吉区・中里フヂヱ)
昼は行商、夜は仕立物(住吉区・中沢あや子)
小児マヒも愛情で全快(東住吉区・中島八重)
電灯ついたデ、仕事せなアカン(東住吉区・中島レイ)
泣いてせがむ高校進学(城東区・中谷いゑ)
大連から引き揚げて(住吉区・中根節子)
いつになったら幸が(住吉区・中野じゆ)
命に階級はないはず(住吉区・中野友好)
戦争はもうごめんです(住吉区・中野正子)
病身に鞭うって(生野区・仲谷チヨ子)
救いの神の保育園(城東区・仲西キヌヱ)
真夜中に自転車の練習(住吉区・長永喜代子)
詠日記と妻の日記(阿倍野区・永田年子)
きついつわりに苦しみながらも(西淀川区・西田もゑ)
生癒えの身を鞭うち行商に(大淀区・西田アサ子)
信仰もつ私に愚痴はなかった(住吉区・西村える子)
わが名はわびしい未亡人(西成区・野口富美子)
奇跡的に還ってきた遺品(住吉区・野田郁子)
春のおとずれ(住吉区・野村スマ子)
三たび空巣に(生野区・端村トメ子)
夜ふけに思う(西区・橋爪寿美恵)
命ある限り朗らかに(住吉区・橋本美子)
相変わらず土性骨の強いやつと(東住吉区・原田一恵)
草葉の陰でもさぞ恩給に感謝(城東区・原田君子)
想いは七色の虹の如く(東区・平井清子)
訪ねたい臨終の地北鮮(住吉区・平沢芳子)
亡夫の許へとボートをこぎ出す(東住吉区・福井和子)
出征を前に仕込まれた薬局の仕事(阿倍野区・福井晴枝)
うれし涙の採用通知(東住吉区・藤井芳子)
保育所に務めさせていたゝいて(北区・藤崎佐代)
十数貫の木材を背に山道を下る(東住吉区・藤田スエノ)
泣かされた夫婦養子(福島区・古家安子)
小さな穴から一筋の光明(西淀川区・星合清子)
会社解散で再度の失業(西淀川区・細川ムツメ)
花かつお(西区・細野ツルヱ)
南京陥落にわくころ(東住吉区・松田キミヱ)
法悦の中に生かされて(都島区・松本花子)
父の欄には「戦死」と記入(住吉区・松本美代子)
みんな住友電気のおかげ(此花区・松本よね)
恩給証書も高利貸の手に(天王寺区・三谷千代)
よい子供、よい先生(都島区・三輪きぬ子)
近づく定年がまた悩み(此花区・簾野ナツ)
凍え死ぬような戦災バラック(大淀区・水谷文子)
生きる力の強さにびっくり(東住吉区・溝江美代子)
届けられた遺品の尺八(西淀川区・南フサノ)
心の夫にすがりつゝ二十三年(港区・宮崎つるゑ)
涙で覚えた植宇工(東淀川区・宮脇ヨシヱ)
いやぁ、お父ちゃんの名だ!(東住吉区・村上亀子)
酒屋の留守を預かって(阿倍野区・村上ナカ)
人の命に階級があるでしょうか(住吉区・村田槇子)
気苦労続きの間借り生活(東住吉区・室井紀露枝)
戦友という男につきまとわれて(大淀区・森重波子)
母子世帯に市営住宅を(東住吉区・森下好子)
もう二度と話さない(住吉区・八幡シズヱ)
鏡に向う今日のしあわせ(旭区・安井利子)
弟夫婦のおかげで(東住吉区・山上アサエ)
終戦三日前に戦死(東区・山口カズエ)
十五回も差押え(城東区・山口ミツ)
尊く、大きい組織の力(西成区・山口ふみ子)
夫待つ心に変わりなく(大淀区・山口よしゑ)
郷里へ帰った留守に戦災(西成区・山崎優子)
風吹かば帰り来て見よそかし(住吉区・山田セキノ)
夫を国に捧げて(東住吉区・山田八重子)
面影ばかりは止め置きても(東住吉区・山野フクヱ)
入社試験前に書類が返送(住吉区・山のフサヱ)
幸福は自分の手で(東住吉区・山本ハルコ)
夫の信頼にこたえたい一念で(東住吉区・山本みつ)
何事も前世の約束事と(東住吉区・養父美代)
貴方!守って!(東住吉区・横川太津子)
保護費を取り上げられて死を覚悟(生野区・横野照子)
私にあるのは忘れ形見だけ(住吉区・吉田こずゑ)
彼岸の貴方に(城東区・吉田孝)
手をつなぎ励まし合う親子四人(城東区・吉原千恵)