映画の中の昭和30年代
まえがき
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銀座化粧
母親が子供に見せるまっとうな人生、それはけっして多くはない収入の、帳尻合わせの日々。
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めし
いまから五十数年も前すでに、女性の幸福はなによりもまず、経済の問題だった。
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おかあさん
「早いものねえ」と感嘆しながら過ごす日々に、ささやかな夢はどこまで実現するのか、しないのか。
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稲妻
物語のための空間をいかにスクリーンに作り出し、それをどのように観客の脳裏に送り込むか。
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夫婦
一九五三年の冬、戦前からの寒い民家、一階と二階に火鉢がひとつずつ、『ジングル・ベルズ』に除夜の鐘。
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妻
戦後の日本はやがて崩壊する仕組みのなかにあった。一九五三年の映画がそのことを静かに教えてくれる。
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山の音
失われた日本、消えた昭和。半世紀以上も前の映画に触発されて蘇る、淡い記憶の数々。
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晩菊
続いていく日々のなかに日常という人生がある。時間に沿って起きてくる変化に、人々は自分を合わせる。
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浮雲
戦後を生きることの出来なかったひとりの女性に最後までつきあった男性の、冷静さと健全さの物語として受けとめる。
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驟雨
出来たばかりの住宅地、駅までの遠いぬかるみの道。薬局の赤電話に会社の夫から伝言がある。
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妻の心
鏡台の前に横ずわりした高峰秀子が完璧に演じる三十歳の人妻。それは失われた遠い日本か。
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流れる
一九五六年、東京の柳橋。平均化された大衆の時代に、置屋の芸者は素人に負けて不景気をかこつ。
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杏っ子
世間のどこかに身を置いてそこに心を預け、食うだけは稼ぐ日々を人生にしていくほかに道はない。
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鰯雲
農業から自分を切り離した人たちは、ひとりずつばらばらに都会へ向かった。そこにしか経済はなかったから。
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女が階段を上る時
一九六〇年の日本でバーが全盛期を迎えた。会社勤めの男たちがもっとも安心して寛げる場所だった。
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娘・妻・母
時代性を真実と取り違え、そこに旧態依然の話をはめ込むという、よくある失敗を確認する。
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あとがき