加藤高明 上巻
第一編 概念篇
性格の人として
庭前の老松枯る(明治 大正の政治外交史を載せて)
持って生れた四特性(『お山の大將』として存在)
其言は『心の鏡』(伯の正直を謳った外國記者)
熾烈なる責任感と闘志(無愛想と無遠慮の天性)
『伊藤侯抑も何人ぞ』(所信發表の前には權柄眼中に無し)
信念一徹と溢るる闘志(再び伊藤公に正論の矢を射る)
山縣 松方 井上の三元老の意見を笑殺し去った信念同志の極致(御前會議の仇討-政權の來ない理由)
情生活の一面(天眞無垢の小兒は忽ちに伯に懐く)
完全なる親切(伯の踏めなかった世渡り常道)
事業の人として
政治家としての伯(濁は其場で吐出す筆法)
『加藤型』の政治家(ステーツマンシップの典型として)
演説の苦心に現わる(伯の眞劍味と責任感と博識)
原・加藤の時代(指導者としての劃時代的立證)
外交先見と強い主張(『策は人なり』の原理を表現す)
明かに刻む『加藤外交』(先ず本國政府と外交した筆方)
思想人としての傾向(情に・於て保守的 理に於て進歩的)
『偉大なる實務家』(現實に善處する天成人)
遺傳の跡
伯の家系(服部家と加藤家の縁由)
佐屋代官手代の實相(裕な收入と地方的の權勢)
『佛』作助と麗容の加奈子(時局を憤って白刄した叔父)
常識豊かなる父重文(富と餘裕と藝術とを享歡す)
生母久子は地方名門の出(薄命の佳人と其音樂趣味の傳統)
遺傳と其環境(精神的にも物質的にも遺憾なし)
*
第二編 成人修業篇
服部總吉の頃
誕生の姿と家と 時代と(繊細楚腰が大兒を生んだ評判)
気位の高い幼童(伯の佐屋凱旋日記に偲ぶ)
寺小屋修業と樂隊の稽古(渾名を牛と呼ばれた理由)
母との永別(墓参に偲ばれた伯の母子縁の哀感)
明倫堂の秀才少年(單身 他の塾に行って相撲を挑む)
初めて洋學に接した頃(白熱的の英語勉強と發心)
加藤家養嗣の顛末及び肉親の其後(實父の破産)
東都學窓記
服部總吉から加藤高明へ(少年の一人旅 徒歩上京の頃)
英人教師との論爭(英語學校時代の首席青年)
受驗勉強と近眼(共立學舎の仙人式修業)
記憶力と周密なる用意(開成學校の寄宿舎生活)
『大鵬の志』の反語(大學首席卒業生が實業界入りの離れ業)
大學時代の行状記(外交の天才 音曲の喉 運動嫌い)
學窓外記
郷里學生の指導者(郷黨に示した伯の全幅の姿)
一學生が『愛育社』を創立(實行的天才と先輩の信任)
『膽汁質の標本』の如き沈着(初めて輝く天性)
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第三編 就職篇
三菱の手代修業
入社と社長の信任(特に金時計を授けられた頃)
海運業の一手代(神戸及び大阪時代)
副支配人と衝突(小樽出張所の三箇月)
洋行に至る事情(三菱の死活期と彌太郎社長の肚裡)
英國留學
先ず廻漕業の本場へ(親日の紳商ポーズ君との關係)
政治の興味へ(英國の憲政常道と選擧權問題)
陸奥宗光伯との親交(滞英二年間に得た著大の效果)
新婚生活に入った郵船時代
副支配人の資格(森岡郵船社長の秘書役を兼ねて)
岩崎家からの縁談(申込の由來と伯の自由な立場)
春治嬢との結婚(陸奥宗光伯に打明けた話)
實業界を去る(結婚の影響と見識の擴大)
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第四編 課長局長篇
大隈外相の秘書官
外交家への轉心(陸奥公使の引く手と 岩崎男の歡諾)
其頃の外務省と伯の關係事件(池島事件と朝鮮問題)
不滅の創案(井上侯への奇計の物語)
條約改正に盡す
條約改正の外交に輿かる(法律調査立案及び折衝)
改正交渉に關する外相代理の信任(外國公使の驚愕)
大隈外相の遭難と伯の辭職(其日に限って陪乗せず)
大藏省の『名局長』の頃
忽ち揚げた名聲(事務の才幹と饒舌)
主税局長としての快腕(文書課長及び監査局長にも優等)
議會に於ける初答辯振り(初陣から闘志滿々の發露)
憲法論の一席(宰相學の修業としての閲歴)
*
第五編 駐英公使篇
一躍して公使へ
日韓攻守同盟の締結(全權公使兼政務局長の仕事)
榮轉以上のもの(外交檜舞臺への出發と活躍)
公使館の不體裁を改む(伯の面目論と社交活動)
日清戰後外交の難局
英国を『清國より日本へ』(倫教に於ける伯の第一事業)
三國干渉と日英關係の好轉(『互に相助くる場合』の別辭)
英露公債戰と伯の邁進(親英の旗幟鮮明なら伯の主張)
英清公債の成立(伯の主張遂に承認さる)
償金完領の歡び(朝野に懸れる不安の一掃)
極東の危機到る
支那分割の急勢と日本(伯の面目の最高發現を見る)
獨露の侵略に面して(英國の朝野に奔走した伯)
露國の赤裸々なる野心表現(その眼中日本無き態度)
伯の『對露硬』外交力説(早くも日露一戰を覺悟す)
日英同盟發芽の秘録
同盟の源に伯在り(一人叫びつつ其土を耕やす)
伯の日英協商の建言原文(試みに商議を開く可き理由)
孤立無援の同盟論者(伯の見識と自尊心と勇氣)
加藤・チェンバレーン内談(政府に向って交渉開始力説)
日英協調の芽生えとしての威海衞事件と伯の斡旋(英國に恩義を感ぜしむる主張)
伯の滿悦と英國の感謝(朝野両黨首の親日論)
極東政策に關する伯の大論陣と斷然辭意を決せる顛末
政府に肉薄する論文(『肺肝を布きて』信念を訴ふ)
伯の建策原文その一(政府の無爲無策を責む)
伯の建策原文その二(露を捨てて英に行け)
伯を容れね政情(内爭と財政難と事勿れ主義)
遂に歸朝を申請す(外相の勸止と條作付留任)
主張の公使
外放擴張に關する苦言(國別加俸と交際費渡し切りの主張)
有栖川宮殿下を迎えて(政府の不洗練に對する忠告)
グラフトン・ギャレリイの夜會(附-觀艦式に富士艦参列)
面目を救うの一路(政府の訓令に反する確信)
膃肭外交も政府案に従わず(共同勸告の訓令を一蹴す)
軍艦の註文と契約愼重論(伯の關係した十七隻の建艦)
歸朝と辭任
強要的の歸朝(賜暇歸朝容れられずば辭任のみ)
世間の非難と眞相(公債募集か斷わった事件の終結)
山縣首相を振り切る(遂に辭任と伊藤公への接近)
朝鮮支那の視察(對支經濟發展の力説)
*
第六編 第一次外相篇(伊藤内閣)
外相に選ばれし事情
伯の外相は『伊藤近頃の大出來』(世論の歡迎)
就任受諾の四條件(四箇月前から伊藤公との黙約)
我が傳統策を覆えす外交(對露屈従から巖重抗議へ)
北京會議に日本を顯現す
微妙なる難局(世界の舞臺に初旅した我が外交)
伯の協調策と條件緩和の主張(支那を助けんとする苦心)
第十五議會に於ける伯の處女演説(首相に代り)
米國の福建省租借を拒否す
先ず日本の内意を問う(三沙澳租借に就いて)
伯の『斷然反對』の返答(米國は我が主張の正當を容認す)
對露外交の急轉針
露國の滿洲野心と伯の持論(露清密約問題)
英獨協商の水泡と伯(折角の對露牽制の聯合成らず)
露國公使を撃った一言(イズチルスキイ公使の加藤觀)
露國の韓國中立案を峻拒す(加藤外交の奇襲)
伯の追撃と露國の警戒(再び露國公使と論戰)
伯の對露外交の勝利
英國を誘う努力(『英國は其の片足を縛られている』辯解)
誠意と決心とは英國を動かす(英国の排露希望)
支那の態度と伯の叱咤一番(噴火山上に踊る支那)
伯が閣議に提出して對露和戰の決を請える稟申書の原文(一戰か屈従か 待機かの三案)
閣議遂に動く(伯の巖重抗議の決意に従う)
伯一人の苦心滲憺(伊藤首相と山本、兒玉両相との協議)
露國の屈讓と伯の面目(『暴風雨の後の靜けさ』と書く)
對露外交が伯の政治生活に及ぼしたる影響
己れを知る強硬(收め得た二重の外交利得)
外交を元老から外務省へ(伯に依って外交は常道に還る)
伊藤侯の信頼激増(伯を懐ろ刀と頼むに至る事情)
明治天皇の御信任(二度までの留任勸告)
*
第七編 代議士篇
『黨外の外相』を望んだ頃
政友會への入黨を斷わる(勸誘か拒絶した三大理由)
黨外の大臣として(硬骨と正論で獨歩した姿)
伯の民黨聯合の策動(政黨の不振を嘆じて)
日英締盟と伊藤公宥め役(無私の外交批評家として)
伊藤・大隈の提携を策す
不承諾の儘で當選(土佐から選ばれた代議士)
板垣伯との絶交事件(伯の無抵抗主義に依って落着)
新代議士への大きい期待(議長選擧に百四十四票を得)
伊藤・大隈を握手させた大芝居(十七議會を解散に導く)
立憲政治の確立に動く
横濱からの『金權候補』(島田三郎氏との競爭事情)
有名なる『落第當選』(意想外の落選と補充當選の受諾)
伊・隈提携の終焉(伊藤公の外交顧問)
再び桂内閣と戰う(同志研究會と十九議會の解散)
*
第八編 新聞經營篇
『東日』の社長
『東日』經營の由來(『口を利く』『子分を得る』の二目的)
手ぶらで新聞引受(伊東伯から買收した前後)
倫敦タイムス標準(『煩さい社長』の蔭口)
事業としての失敗(運命の沈滞時代を語る)
外交批評の論陣
伯の社説九十餘篇(東日社説の壓倒的勢力)
日英同盟論の家元(條約改訂の聲援と批評)
筆を以て日・露戰争に參加す(戰時外交論策の權威)
償金と全樺太割取の力説(我が條件の援護と失敗の攻撃)
ポーツマス條約の總評(小村外交批評の代表作)
*
第九編 第二次外相篇(西園寺内閣)
戰後外交の指導へ
小村か加藤かの定石(伯が就任の當然性)
前内閣系の反感と變節呼ばり(入閣を決意した伯の心事)
露國公使撃退の悲喜劇(外交には無類の痛烈なる應酬)
鐵道國有案に反對して單身辭職せる事情
獨り鐵道國有案を阻ばむ(内閣と釣替への強論)
私權に對する強迫に抗す(伯が國有案に反對した三理由)
在任僅に五十六日(伯を犠牲に鐵道國有案決す)
政治家の本分を全うしたるもの(伯が辭職の反響)
當らざる辭職動機の邪推(三菱利益代辯との流言)
辭職の他の秘録と運命の衰頽
軍閥外交の撤退を迫る(大磯秘密會議)
褪せて行く伯の政友色(辭職後 政界孤立の二年半)
*
第十編 駐英大使篇
對英外交は伯を要す
『加藤』對『小村』(互に其實力を確認して)
伯を大使に動かす筋書(小村-桂-伊藤・松方-小村)
内外言論界の歡迎(伯を推した小村侯の意中)
大使時代の外交振り(先ず本國政府と外交す)
關税自主權恢復の外交
當然性と困難性(税權を縛られた五十年の歴史)
伯の對英交渉に集中す(グレイ外相との非公式談判)
兩國の輿論激昂す(チロール氏と共に現情を憂う)
無條約に陥らんとした形勢(一時交渉を中止す)
論述三時間に及ぶ(?政府案行詰って私的會談へ)
『加藤私案』の採用と努力(伯が自説を主張した辯論)
我が自主權初めて成る(伯の授爵の理由)
日英同盟の『復活』
日英同盟の不人氣(盟邦關係も寸前暗黒に陥る)
伯の同盟愛の不變(同盟の期間延期を願う)
加藤・グレイの諒解(『在るものを廢するは極めて重大事』)
政府案の撤囘を要請す(政府に反省を求めた事情)
伯と小村外相との論爭(假定論理と交渉實策論)
果然英國の冷熱傾向(伯の先見は不幸にして的中す)
新協約の成立(遂に『但し書』の一項を削除して成る)
湧き返る人氣(附 協約全文)
日英同盟御親書の秘録
同盟に關する伯の不安(日露及び日佛協商に對する觀測)
御親書に依る復活の主張(同盟の價値効用の擁護)
伯に下された勅語(英國皇帝が返された同盟愛)
グレイ・外相との惜別(同盟を國是とするの語らい)
貢獻及び誠忠餘録
朝鮮併合と英國の希望(大局から見る伯の主張の一面)
大使館の移轉(伯が獻じた金融策に依って)
明治天皇の崩御に際して(英帝の親情と 伯の至誠)
*
第十一編 第三次外相篇(桂内閣)
政派的急轉向の經緯
初めは桂公の政敵(政策的にも感情的にも不和)
仲人の驚ろき(一日の會合に百年の知己)
政友系との告別(桂公との握手を中止させようとした諸友)
宿命の導きと觀る(原・加藤時代は斯くして生る)
内閣の指導勢力としての活動
二重外交拒絶の入閣條件(下二番町の會見内容-その一)
両公の御前妥協策を獻す(下二版町の會見内容-その二)
伯の筋書の運び(御前圓卓會議の變形を採る)
桂内閣の總辭職と伯(閣僚の驚愕と 伯の心底の謎)
山本内閣への留任拒絶眞相
山本首相の懇望を拒む(山本伯の留任希望の眞相)
『加藤の男が立たぬ』(牧野伯に對すろ伯の言葉)
*
第十二編 同志會篇
入黨の眞相
同志會の誕生(發生を見物して居た伯)
伯の思想的入窯(官僚思想の否定と 政黨政治の持論)
入黨を導く人事(桂―大石-仙石の三氏)
痛烈なる『入黨條件』(三人會から條件成立までの經緯)
再び支那視察へ(内政不干渉主義の思想發表)
常務の試煉
直ちに筆頭常務へ(果して眞劍かを氣遣った人々)
天龍峽を下る(『政黨を率い得る勇者は 加藤か會彌』)
愼重なる外交攻撃(南京に事件に關すする態度)
桂公の死と後藤伯の脱黨に面して(潜在勇氣の變動)
同志會總理
石橋を叩いて總理へ(桂公の遺言と大浦子の切言)
同志會結黨式と伯の總理演説(秩序節制と公益第一主義)
對議會策の試煉(政策の責任及び具體化の主張)
『陛下の在野黨』を説く(伯の帝國ホテル演説)
同志會の内紛と伯の立場(皮肉を連發して黨員を激勵す)
シーメンス政變(伯の貴族院豫算修正に關する意見)
*
附録 伯の英國觀
編者のはしがき
思想言論の自由
勞働運動と社會主義
議會に於ける言論の自由
新聞紙の勢力
タイムスの眞價
上品なる新聞・雜誌
新聞記者の人格・識見
日本新聞紙の缺點
人情・風俗の一斑
英人の國民性
善く働き善く遊ぶ
社交の會合
書信と面會
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上巻寫眞目次
桂内閣の外相時代
服部家の近親
佐屋生地の跡及び幼時游浴せし蟹江川
大學時代の伯と法學部の同窓
三菱入社の際と 留學の直前の伯 及び學生時代の郷友
公使時代及び主税局長の頃の伯
大使時代の伯と館員
大使時代の伯と夫人令嬢
伯の自作自筆の演説草稿(四六頁・挿入四葉)
伯の父重文の和歌と筆跡(八一頁・凸版)
英國留學の際 伯の五代博士宛書面(一六五頁・凸版)
伯が受領した清國償金一千一百萬磅の手形(二六四頁・挿入一葉)