百人百句
- サブタイトル
- 編著者名
- 大岡 信 著者
- 出版者
- 講談社
- 出版年月
- 2001年(平成13年)1月
- 大きさ(縦×横)cm
- 20×
- ページ
- 382p : 挿図
- ISBN
- 4062082225
- NDC(分類)
- 911
- 請求記号
- 911/O69
- 保管場所
- 地下書庫和図書
- 内容注記
- 昭和館デジタルアーカイブ
まえがき
春
長持へ春ぞくれ行く更衣(井原西鶴)
菜の花や淀も桂も忘れ水(池西言水)
大原や蝶の出て舞ふ朧月(内藤丈草)
行春や海を見て居る鴉の子(有井諸九)
ゆく春や蓬が中の人の骨(榎本星布)
花鳥もおもへば夢の一字かな(夏目成美)
雪とけてくりくりしたる月夜かな(小林一茶)
闘鶏の眼つぶれて飼はれけり(村上鬼城)
箱を出て初雛のまヽ照りたまふ(渡辺水巴)
たわたわとうすら氷にのる鴨の脚(松村蒼石)
片隅で椿が梅を感じてゐる(林原耒井)
花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ(杉田久女)
空をゆく一とかたまりの花吹雪(高野素十)
なつかしの濁世の雨や涅槃像(阿波野青畝)
少年や六十年後の春の如し(永田耕衣)
永き日のにはとり柵を越えにけり(芝不器男)
おぼろ夜のかたまりとしてものおもふ(加藤楸邨)
春寒くこのわた塩に馴染みけり(鈴木真砂女)
女身仏に春剥落のつづきをり(細見綾子)
春深くケセランパサラン増殖す(真鍋呉夫)
春の鳶寄りわかれては高みつつ(飯田竜太)
浦公英の絮吹いてすぐ仲好しに(堀口星眠)
押し合うて海を桜のこゑわたる(川崎展宏)
目を入るるとき痛からん雛の顔(長谷川櫂)
*
夏
閑かさや岩にしみいる蝉の声(松尾芭蕉)
渡り懸て藻の花のぞく流哉(野沢凡兆)
水ふんで草で足ふく夏野哉(小西来山)
なんと今日の暑さはと石の塵を吹く(上島鬼貫)
越後屋に衣さく音や更衣(榎本其角)
夕すヾみあぶなき石にのぼりけり(志太野坡)
涼しさや鐘をはなるるかねの声(与謝蕪村)
さうぶ湯やさうぶ寄くる乳のあたり(加舎白雄)
雨を帯びて麗はしの粽到来す(尾崎紅葉)
みじか夜の浮藻うごかす小蝦かな(松瀬青々)
空をはさむ蟹死にをるや雲の峰(河東碧梧桐)
炎天や死ねば離るヽ影法師(西島麦南)
朴散華即ちしれぬ行方かな(川端茅舎)
祭笛吹くとき男佳かりける(橋本多佳子)
おそるべき君等の乳房夏来る(西東三鬼)
ところてん煙の如く沈み居り(日野草城)
冷されて牛の貫禄しづかなり(秋元不死男)
噴水にはらわたの無き明るさよ(橋閒石)
美しき緑走れり夏料理(星野立子)
金粉をこぼして火蛾やすさまじき(松本たかし)
ゆるやかに着てひとと逢う蛍の夜(桂信子)
虹自身時間はありと思いけり(阿部青鞋)
新月や蛸壷に目が生える頃(佐藤鬼房)
二滴一滴そして一滴新茶かな(鷹羽狩行)
*
秋
君が手もまじるなるべし花芒(向井去来)
沙魚釣るや水村山廓酒旗の風(服部嵐雪)
初恋や灯篭によする顔と顔(炭太祇)
秋来ぬと目にさや豆のふとりかな(大伴大江丸)
やはらかに人分けゆくや勝角力(高井几董)
月を笠に着て遊ばヾや旅のそら(田上菊舎)
秋の江に打ち込む杭の響かな(夏目漱石)
行く我にとどまる汝に秋二つ(正岡子規)
空をあゆむ朗朗と月ひとり(荻原井泉水)
よろこべばしきりに落つる木の実かな(富安風生)
頂上や殊に野菊の吹かれ居り(原石鼎)
人それぞれ書を読んでゐる良夜かな(山口青邨)
白露や死んでゆく日も帯締めて(三橋鷹女)
肉皿に秋の蜂来るロッヂかな(中村汀女)
秋の航一大紺円盤の中(中村草田男)
蟋蟀が深き地中を覗き込む(山口誓子)
吹きおこる秋風鶴をあゆましむ(石田波郷)
軍鼓鳴り/荒涼と/秋の/痣となる(高柳重信)
或る闇は虫の形をして哭けり(河原枇杷男)
おさへねば浮き出しさうな良夜なり(平井照敏)
流すべき流灯われの胸照らす(寺山修司)
*
冬
水鳥やむかふの岸へつういつい(広瀬惟然)
こぼれては風拾ひ行鵆かな(加賀千代女)
枯れ芦の日に日に折れて流れけり(高桑闌更)
海老焼てやまひに遊ぶ寒の中(三浦樗良)
こがらしや日に日に鴛鴦のうつくしき(井上士朗)
奥白根かの世の雪をかゞやかす(前田普羅)
枯枝ほきほき折るによし(尾崎放哉)
寒雁のつぶらかな声地におちず(飯田蛇笏)
ゆきふるといひしばかりの人しづか(室生犀星)
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり(久保田万太郎)
木がらしや目刺にのこる海のいろ(芥川竜之介)
冬菊のまとふはおのがひかりのみ(水原秋桜子)
蝶墜ちて大音響の結氷期(富沢赤黄男)
雪の水車ごつとんことりもう止むか(大野林火)
冬麗の微塵となりて去らんとす(相馬遷子)
梟や机の下も風棲める(木下夕爾)
干足袋の天駆けらんとしてゐたり(上野泰)
除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり(森澄雄)
鍵穴に雪のささやく子の目覚め(石原八束)
冬の日や臥して見あぐる琴の丈(野沢節子)
湯豆腐のかけらの影のあたゝかし(飴山実)
*
新年・無季
新年
元旦やくらきより人あらはるヽ(加藤暁台)
去年今年貫く棒の如きもの(高浜虚子)
羽子板の重きが嬉し突かで立つ(長谷川かな女)
無季
しんしんと肺碧きまで海の旅(篠原鳳作)
戦争が廊下の奥に立つてゐた(渡辺白泉)
黄泉に来てまだ髪梳くは寂しけれ(中村苑子)
谷に鯉もみ合う夜の歓喜かな(金子兜太)
遺品あり岩波文庫『阿部一族』(鈴木六林男)
水塩の点滴天地力合せ(沢木欣一)
戦争にたかる無数の蝿しづか(三橋敏雄)
あとがき
近世俳人系譜・現代俳人系譜
俳人索引
初句索引
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